メカニズム
どのようにして発生し、どのように伝播するのか
1・発生
噂やデマが発生する条件に「何らかの不安感が蔓延してる」事が挙げられる。
人は不安感があると、より多くの情報を集めて不安を取り除こうとする行動に出る。知らない土地に行った
時を思い出して欲しい。大概、周囲をキョロキョロと見まわすだろう。自分の住んでいる土地や、慣れた土
地では、そんな行動は取らない筈である。不安が無い、或いは少ないからだ。
もし、その見まわした中に「ここは○○町」と書いた看板があったら、あなたはその情報を信じるだろう。
仮に、その看板が間違って業者から配送されたモノだとしても・・・
で、土地の人に「ここは○○じゃなく、××だよ。」と言われたら、「え?だって、あの看板には○○って書
いてありましたよ。」と反論するだろう。そこで、「あの看板は誰かが間違ってこの町に持って来ちゃったらしい
よ。」と言われれば納得するだろうが、「××だよ。」とだけ言われたままでは判断に困るだろう。そうすると、
不安は残ってるので、より多くの情報を集める。「えぇ〜・・・!」とか言いながら周囲をキョロキョロ・・・
そのうち、近くで電話をかける営業マンを見つける。その会話の中で「はい、今は○○にいます」と言ったと
しよう。仮に、その営業が何らかの事情で××にいる事を隠したかったので電話で嘘を言ってたとしても、あ
なたは「なんだ、やっぱり○○じゃないか!」と思う。
そこに、あなたのように不安を抱えた人が「すいません、ここはナニ町ですか?」とあなたに尋ねる。あなたは
こう答えるだろう。「○○町です。ほら。」と、例の看板を指差す。
これで、二人の人間が「間違った情報」に踊らされる事になる。
この間違った情報には、いくつかの要素が含まれている。
A・知らない土地(不安感)
B・間違った看板(情報・1)
C・不親切な土地の人の案内(情報・2)
D・営業マンの言葉(Bを補う情報)
そして、最後が・・・
E・あなた(発生源)の確信的説明
これが、土地の名前等の「不変の情報」だったら、その後にいくらでも修正は出来る。しかし、それが「流動的な
情報」だったとしたら・・・
愛知県の「信金取りつけ騒動」を例に取ると、まず電車内で女子学生が会話してた。
「あたし、X信金に就職内定もらったの。」
「へ〜、でもアンタなんか採用するんじゃ、あの会社ヤバイんじゃない(笑)」
これを乗り合わせてたオバチャンが聞いていた。
そのオバチャンが、近所に人(仮にAさん)に「あくまで笑い話」として、その会話の事を話した。
Aさんも、笑い話として聞いていた。勿論、すぐにそんな話は忘れた筈だった。
しかし、Aさんの頭には「X信金」「ヤバイ」という単語だけは残っていた。折りからの経済不安で、金融業界に
関するニュースや、会社の倒産といったニュースが多かったのも原因だろう。
ある日、Aさんの営むクリーニング店に「ちょっと電話貸してください」と、初老の男性が現れた。
店先の電話を貸すと、その男性が「X信金の口座、引き上げるんですね。」と会話していた。タダ単に会社の
取引上、引き上げるだけだったろうが、それを聞いたAさんの頭の中では「預金引き上げ」に前出の二つの情報
が足されてしまったのである。共通項は「X信金」。
ここからは三題話である。「預金引き上げ、X信金、ヤバイ」でナニか話を作れば、一番簡単なのは「X信金がヤバ
イから、預金を引き上げた」であろう。スパイスとして「経済不安」がある。
ここでの要素は
A・経済不安(不安感)
B・笑い話から抽出された単語(情報)
C・電話の会話(Bを補う情報)
こうして一つのデマが生まれた。
2・伝播
Aさんは、まず知り合いや親戚でX信金を利用してる人間に電話した。
「実は今日、こんな人がきて・・・」まずは状況を話す。その後に・・・
「以前に、こんな話も聞いたし・・・」と、抽出された情報を加え・・・
「まさか、とは思うけど・・・アブナイのかなぁ・・・」と繋ぎ、更に・・・
「こんな御時世だからねぇ・・・」と付け加える。
他人に話してるうちに、それは不確定な情報ながら真実味が沸いてくる。で、Aさんは信金窓口に走った。
電話を受けた方にとってはAさんからの情報は「信頼できる人からの直々の情報」だから鵜呑みにするだろう。
経済不安というスパイスが効いているので、呑むのもカンタンだ。
こうして話は広まる。中には「そんな事ぁないだろう」と、慎重にでる者もいるだろうが、伝達者に「この人を
助けよう」という心があれば、イロイロな尾ひれ(信頼できる人から、とか、昔からアソコは、とか・・・)を付けて
信用させる。そうすると慎重派も「そこまで言うならホントなんだろう」と思う・・・結果は・・・
X信金は本店・支店に預金者が駆け込み、総額20億円もの預金を引き出されるという事件になった・・・
噂やデマが伝播する重要な要素に「親切心」がある。知る事によって利益を生んだり、不利益を避ける事に
なる情報を、周囲の人に知らせたい、この感情が、噂やデマを伝播させるのである。
子供たちの噂には「そんな事知っててもナンの得にもならないモノ」もある、と思うだろうが、子供にとって
「面白い話」とか「怖い話」は「もっとも価値のあるネタ」である。「ねぇねぇ、知ってる?」で、話題の中心に
なれるんですから。